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    モトラ、抱き付き!

     モトラのエンジンオイルが漏れ始めたのは、2007年の2月だった。クランクケースのガスケットから漏れていると思ったが、エンジンの底面をスワブで拭い、翌週調べたら、ギアペダルシャフトのオイルシールからにじみ出ているのを確認した。その時点でオイルシールを交換すればよかったのだか、1カ月に1度の頻度でオイルを500cc注ぎ足すという対処療法で今までやり過ごしてきた。


    エンジン中央の合わせめからオイルが滴っていたので、クランクケースのガスケットか、と思ったのだが



    エンジンの底を拭いて翌週チェックしたら、ギアペダルシャフトの周りがオイルで濡れていた



     7月29日は、そろそろ注ぎ足しの時期だったが、出発を急いでいたのと、オイルが足りなくなっていたときに発生するエンジンの「シャリシャリ」音が暖気中に聞こえなかったのとで、「大丈夫でしょう」とそのまま出発してしまった。今となっては、悔やんでも悔やんでも悔やみきれない「その時」だった。

     MMFを出発して15分ほどした、まもなく「一騎塚」交差点に差しかかろうとする長い下り坂を走っているときに、モトラがわずかに減速した。アクセルを開いているのに速度が出ない。と、まもなくエンジンブレーキが利いたときのような「ククククク」という抵抗を感じ始めた。これはただごとではない。運良く見つけた駐車場に滑りこんで停車したとたん、エンジンが「ククン」と停止した。初めて出くわす症状だった。

     ぬけている私は、燃料コックを閉じたまま走り出して、ガス欠状態で停止してしまうことがママあるが、そのときのような、「スー」とパワーがなくなって止まってしまうのとはまったく違う感触だった。モトラで初めてMMFに行った帰り道、自宅のある駅の1つ手前あたりでスロットルケーブルが切断してモトラが走らなくなったことがあった。いま、止まる寸前の、「アクセルを開いても開いても速度が出ない」という感触とよく似ていた。しかし、そのときにエンジンが止まる感じはガス欠と同じ「スー」と力が抜けていくようだった。いまのはそれとだいぶ違う。

     キックは降りるし圧縮も感じるがエンジンが始動しない。原因が分からない。キックを下ろすとエンジンから「キュキュキュ」と摩擦音がする。ようやく、エンジンオイルのことを思い出した。オイルキャップを開けると白い湯気が勢いよく上がってきた。検油棒で確認したらオイルがほとんどなくなっていた。

     やってしまった、焼き付いたか。キックは降りるので、抱き付きですんだのか。抱き付きですんだとしても、オイルがない状態でエンジンを回せばダメージは大きくなる。予備のエンジンオイルは持っていない。

     この場でできることはない。バイク保険のレッカーサービスをここから横浜の自宅まで利用したらいくらかかるか見当もつかない。進退窮まった。とにかく、モトラを引いてガソリンスタンドを捜すことにする。軽い抱きつきですんでいれば、オイルを注ぎ足してエンジンを冷やせば再び動かすことができるかもしれない。幸い、一騎塚の近くまで来ていたので、ガソリンスタンドはすぐ近くにあるはずだった。

     15分ほどで、ガソリンスタンドを見つけた。エンジンオイルを500cc注ぎ、アクセルを開き気味でキックするとエンジンが始動した。「キュキュキュ」という異音もしなくなった。しかし、アクセルを戻してアイドルにするとエンジンも止まる。あくまでも応急処置に過ぎない。ピストンとシリンダーにダメージを受けている。

     ガソリンスタンドのスタッフはとても親切で、知り合いのバイクショップに電話をかけてくれた。バイクショップのスタッフはモトラをピックアップして修理してあげようと提案してくれたが、エンジンが回っている分にはなんとかいけそうだったので、モトラを走らせて帰ることにした。速度を抑え気味に走り、信号で止まるたびにエンジンが停止する前にギアを急いでニュートラルに戻してアクセルを吹かす。マフラーからオイルが焼ける青い煙が吐き出される。

     どうにかこうにか、横浜の自宅までモトラは走ってくれた。走っている分にはいつもとまったく同じモトラだった。しかし、正しい危機対処で考えるなら、ガソリンスタンドでバイク屋にピックアップしてもらい修理をするべきだった。

     私のモトラは、もともと「パーツ取り」用の車体としてオークションに出品されていた。だから、外装はボロボロで電装はガタガタで足回りはヨロヨロで、とにかく購入してから交換に次ぐ交換でようやく走れるようになった。ただ、「エンジンがキレイな車体は大丈夫」と根拠なく信じて購入した、そのエンジンの調子が実によく、モトラより重い私が乗った状態でも、国道16号の車の流れをメーター読み時速70キロで走ることもできた「ような気がする」(原付の法定制限速度は時速30キロ)。

     そんな、エンジンだけが取り柄のモトラだったのに、そのエンジンを自分の怠慢でダメにしてしまった。

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