ジブシートはほどけ、着岸には失敗する
2月22日 晴れのち曇り 南西の風 風力7(阿武隈独自基準)
0830自宅出発、三浦海岸駅から宮川町に行くバスの時間に合わせて自宅を出たのに、寝過ごして三崎口まで来てしまった。
1030乗船。クリートにごろりと何か乗っかっている。よく鳥の食べ残した貝殻や魚の破片が散乱していることがあるが、それにしては大きい。よくみたら、魚が丸々一匹。さすがに内臓系は食べてしまったようだが、外見はそのまま残っている。手にしてよく見ると、おおお、ふぐだ。私だってめったに食べないのに、贅沢にも食べ残しですか。
しかし、ちょうどうまくおいたものだなあ
ふ、ふぐだー。干物になっているけど
1100艤装完了。予報では夕方にかけて大西が吹き上がることになっていた。先行して出港していたSeaWalker IIが帰港して大きなうねりが押し寄せていたと報告している。しかし、「阿武隈」なら平均15メートルまでなら無事に帰ってこれると判断して1120出港する。
出港直前まで風はまったく吹いていなかったが、出港と同時に南から吹き上がってきた。南から押し寄せてくるうねりを越えて港の外に出る。出港していた遊漁船が一斉に帰ってくるところで、安房埼灯台周辺は混雑していた。セイルアップを待ってそのまま風に向かって南下する。安房埼灯台を正横に見る位置でセイルを揚げる。右に暗礁、左に定置網で条件が悪い。メインセイルをワンポイントリーフで揚げる。
次いで(ストームにするか迷いに迷ってセットした)ジブセイルを揚げる。前甲板に移動する途中で急に右腕に痛みが走った。猛烈に痛い。うなり声を上げて痛みをちらす。だが、利き腕なのに力が入らない。ジブハリヤードをピークに取り付けて固縛していた雑索をほどく。これだけの作業にずいぶんと時間がかかった。強い南風にあおられて、ジブセイルが猛烈にシバーする。なんとかピークまで揚げてジブシートを引き込もうと思ったら、強風なのにやけに軽い。ん?と思ってジブセイルを見たら、クリューからジブシートがほどけているじゃないかっ! いかーん、あわてて前甲板に飛び出してジブセイルを引き降ろす。強風でセイルがあおられ、甲板がうねりで激しく上下し、甲板に打ち込んでくる波で全身がずぶぬれになる状況でなんとかセイルを降ろした。しかし、とてもじゃないが、ほどけたジブシートをクリューに結びなおす余裕はない。降ろしたセイルをトウレールに固縛するのが精一杯だった。
ようやく作業を終えてコックピットでティラーを握る。ワンポイントリーフのメインセイルだけで帆走。タックタックで南下と西進を繰り返す。だが、メインセイルだけなので、「阿武隈」の反応は鈍い。一応タックアングルは90度を出せているが、これだけ風が吹いているのに速度が出せずパワーがないので、波に翻弄されながらじりじりとにじり寄る感じだ。これと似たような海況で、大島から帆走で帰ってきたことがあったが、そのときは、ジブセイルとワンポイントリーフを入れたメインセイルの組み合わせで、もっと安定して帆走できた記憶がある。やはり、2枚のセイルがないとセイリングクルーザーは十分な帆走能力を出せないのだろうか。
前甲板にいってジブシートをクリューに結びなおしたいが、「阿武隈」がうねりに翻弄されているのでできない。前甲板に出るのが怖い。本当なら、ジブセイルからストームセイルに切り替えるべきなのだが、ジブシートを結べない今の自分にセイルチェンジができるわけない。「強風下でもセイルエリアを適切に調整すれば安定して帆走できる」というのが自分の考えだったが、自分にできるのは、いったん決めたセイルの組み合わせだけで対応できる海況に限られる“条件付き”であって、今回のようなジブシートのトラブルや、ストームセイルへの変更に対処できるシーマンシップを習得して始めて外に向かって主張する資格ができる。自分の思い上がりを反省する。
波が甲板の上から押し寄せてくる
1300、出港から1時間半でようやくMMFの南2.5海里に至る。そろそろ戻らないと大西が吹き上がる前に帰港できなくなるのでここで反転。クオーターリーで風を受けてジャイブジャイブで北上と東進をくりかえす。相対的に風が収まってようやく気持ちに余裕ができる。クローズホールドでは2~3ノット程度しか出せなかったが、クオーターリーではメインセイルだけでも5ノットで快走する。メインセイルだけだったおかげでクローズホールドでは速度が出せずに安定しなかったが、追っての帆走では逆にセイルの取り回しが楽だった。
追っては風が収まって気持ち的には楽になったが、波で取られる舵を力いっぱい戻すのには苦労した
1400、MMFの入り口に到達するが、うねりが激しくてメインセイルの引き降ろしや係船索のセットなどが困難だったので、三崎港に向かう。せめて海面がフラットな場所で係留準備を行いたかった。幸い、行き来する船もなく、風に流されながらもうねりに翻弄されることなくセイルダウンと係船索、フェンダーのセットが完了。機走でMMFに帰港する。
MMFも南東の風が強かった。「阿武隈」の係船場所ではちょうど向かい風と桟橋から押される方向に風が吹いている。それを考慮して船体を桟橋にこするぐらいの気持ちでぎりぎりのタイミングで舵を切り、最後まで速度を維持したまま突入しようと思っていた。桟橋には「PrincessBayII」の船長が支援のために待ち構えてくれている。
速度を維持したまま水路を進んで着岸のために舵をきる。タイミングはよかったが、いつものように減速を急いでしまった。速度が落ちて風に流される。右隣の「SILVERWAVES」に接触しそうになって、あわてて足で押し返す。この段階でいったん着岸をあきらめ、水路に戻ってやり直すことにした。
そのまま、後進で戻ればいいのに、見栄を張って、後進してから前進に切り替えて出て行こうとしたのが大間違いで、後進から前進に切り替える、行き足がなくなる段階でまたまた風に流されて、今度は対岸の船のスターンに接触しそうになる。万事休す。この風で押し付けられたら離脱できなくなる、と思ったら、「PrincessBayII」の船長がぶつかりそうになっていたパワーボートのトランサムで待ち構えていて「阿武隈」を押し返して離脱させてくれた。再度の着岸も浅い角度で進入したために、船体が桟橋から離れそうになったが、「PrincessBayII」の船長をはじめとした多くの人の援助でなんとか着岸できた。自分ひとりではどうなっていたか分からない。
出港して無事に戻ってきて着岸できて航海は完結する。先に「平均15メートル程度までなら行けると判断して出港する」と書いたが、自分のスキルではきょうの海況で航海を完結できなかった。再度、自分の思い上がりを反省する。
1530解装完了。1600下船。宮川町からバスに乗って三浦海岸駅で京急に乗る。来週と再来週は所用で「阿武隈」に来れない。