阿武隈 twitter版

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    モトラの中古エンジンからピストンを取り出す

     2万円で落札したモトラの中古エンジンが届いた。困ったことに、中からオイルが漏れて梱包のダンボールに染み出して、業者がビニールで覆った状態でやってきた。宅配業者は「荷物に異常がないことを開封しないで確認してくれ」と、とても難しい要求してきたが、透視スキルを持たない私は中身を確認するためにダンボールを開けた。中には、モトラの中古エンジンが緩衝材に包まれることなく、むき出しのままごろりと入っていた。

     同じ価格帯で出品されていたなかで、外見が一番きれいなものを落札したつもりだったが、それでも、表面はは一面にうっすらと白い粉をふいたような感じで痛んでいた。メーカー欠品なのに流用できるモデルがなく、使えなくなったら代わりの入手が困難といわれている貴重な貴重な消耗パーツ「ドライブスプロケット」が、ほとんど磨り減っていない状態で組み込まれていたのは幸いだった。


    表面に粉を拭いたようなシリンダーヘッド



    ドライブスプロケットがほぼ完全な状態で組み込まれていた

     しかし、よくよく考えれば、それほど使い込んでいないエンジンが単体で売りに出ていたことになる。何かしら問題が起こってエンジンだけが厄介払いされた可能性がある。その一方で判断を迷わせるのが、「使い込んで見ためがよれよれの、でも、走りはしっかりしているモトラは、オークションで車体単位で出品するより、ばらしてパーツごとに出品したほうがトータルの利益が多い」という最近のモトラ相場事情だ。この場合、問題がなくてもエンジン単体で流通することになる(こういう合理的な経済思考で貴重な実働モトラが次々と姿を消しているというのは、まことに惜しい)。

     と、一抹の不安を抱えながら、腰上げを分解してピストンとシリンダーを取り出す作業を始める。経験者に語らせると、腰上の分解作業はエンジン整備のうちでは簡単な部類に入るというが、「初めて扱うの車/バイクがこのモトラ」の私にとって、エンジンそのものが触れてはならない「聖域」に等しい。とはいえ、最悪ピストンとシリンダーが取り出せさえすれば、何か手違いがあってふたたびエンジンが動かなくなってもいいわけで、気は楽だ。サービスマニュアルの説明に沿ってシリンダーヘッドのサイドカバーを取り外し、カムスプロケットを外す。

     ガスケットで固着した左サイドカバーと外すときは、右サイドカバーのフランジボルトを少し外す。外して飛び出してきたボルトの頭をゴムハンマーで軽くたたくと、その衝撃で左サイドカバーが「パコン」と外れる。カムスプロケットを取り外すときは、クランクシャフトを回して、スプロケットに刻印されたマークと合わせ溝を一致させる。クランクシャフトには、左クランクケースカバーにある30ミリキャップ(トップにマイナスねじのようなモールドがあるフタ)を開けるとアクセス可能。

     上記2点は、サービスマニュアルを読んでも、やり方がイメージしにくかった箇所だ。それから、シリンダーヘッドを固定しているボルトとシリンダーを固定している10ミリボルトには、メガネレンチやソケットレンチが入らないことも作業をして初めて気がついた。ここは、スパナでないと手が出せない。




    クランクシャフトにはこのキャップの窓からアクセスする。カムスプロケットの位置を合わせたら、クランクシャフトを固定してスプロケットを取り外す。固定にはソケットレンチを使うが、私はペンチで代用した

     シリンダーヘッドもシリンダーもガスケットが固着してなかなか外れなかった。ゴムハンマーでコツコツたたいて外すのが常道らしいが、どうにもこうにも外れない。やむを得ず、小さいマイナスドライバをクサビのように打ち込んで、ゴムハンマーで軽くたたくことにする。岩が割れるようにシリンダーヘッドがガゴッと外れた。メタルのガスケットとトップピン、Oリング、ゴムパッキンを取り外して、シリンダーケースにも同じようにクサビを打ち込こんだら、ガコッと外れた。


    シリンダーヘッドを外した時点で、すでに、あわわわ、つ、ついにエンジンを分解したぁぁぁっ、と恐れおののいている


    シリンダーを外す。単気筒エンジンのピストンが「チョコン」という感じで姿を現した

     やっとピストンが姿を現した。モトラのエンジン本体に比べてすごく小さい。こんな小さい部品が、モトラと私を合わせて「ひゃくうんじゅっキロ」の重さを時速70キロと“勘違い”してしまうような勢いで往復120キロにも及ぶ都合4時間も移動するパワーを生み出しているとは、信じがたい。「あんな鉄の化け物が空を飛ぶなんて信じられるかい」という明治生まれのような感想を抱きつつ、ピストンの状態を確認してみるとっ。


    ぐああああああああ、傷だらけ

     側面の一面に縦スジが入っていた。溝のようにざっくりと深い傷も2本ほど入っている。とてもじゃないが、これは使えない。始動はしても高回転は無理だろう。買って早々にエンジンをだめにして放置、それを引き取った業者がパーツごとにバラ売りにしたのだろう。

     貴重なフロントスプロケットがまともな状態で手に入ったし、腰上分解の方法も学べたし、と無理やり自分を納得させて、再度、中古のモトラエンジンをオークションで物色することにした。

    モトラの中古エンジンを物色する

     だいぶ前の話になるが、抱きつきを起こしたモトラのエンジン修理について、お盆休み前にホンダウイングと相談した。そのとき、ガスケット、ピストンリングはショップで調達してもらい、ホンダで欠品となっているピストンとシリンダーはこちらで準備することになった。

     モトラのエンジンはカブファミリーなので、モンキーあたりからいくらでも流用できそうに考えていたが、どうも、そういうわけにはいかないとショップのスタッフは言っていた。Webでいろいろ調べて見たが、実際にモンキーのピストンをモトラに流用したというケーススタディが出てこない。ボアアップキットの適合を見る限り、12ボルト4.5psのモンキーRと共有できそうな感じだが、両者のピストンを画像で比較してみると、横長のモトラピストンに対して、モンキーRのピストンは、ほぼ正方の断面を持つように思えた。

     そういうわけで、オークションで純正のモトラエンジンを入手して、そこからピストンとシリンダーを取り出すことにする。オークションにはモトラのエンジン単体がいくつか出品されているが、上は4万円半ばから下は1万円半ばと幅がある。どれも「実働エンジン」となっているが、始動したあとアイドリングは安定しているのか、高回転は問題ないのか、ギアチェンジはスムーズなのかの説明がない。抱きついたエンジンでも始動するのは自分のモトラで分かっている。試しに、出品している業者に、ピストンとシリンダーは無傷なのか、過去に抱き付き歴があるのか聞いて見たところ「そこまで確認してない」という回答だった。

     こちらとしては、始動しなくても、アイドルが安定していなくても、クラッチがおかしくても、ピストンとシリンダーさえまともならそれでいいのだが、そういうことを確認して教えてくれる業者はいなかった。

     そういうわけで、最も安い2万円に設定されているいくつかのエンジンから「一番キレイにみえる」ものを落札することにした。


    2万円で落札したモトラのエンジンがやってきた。腰上げの解体整備は簡単な部類に入るとバイク整備の経験者はいうが、「初めてのバイクがモトラ」の私には触れてはならない聖域に等しい

    疲労困憊で港にもいけず。

     9月最後の週末は港にいけなかった。10月の3連休に伊豆諸島方面の巡航を計画していたので、デッキのFRP作業や食糧の調達などやらなければならないことがたくさんあったが、肉体疲労に負けた。

     続く週の水曜日には代休をとったが、そのときも“静養”で終わった。ギリギリ3連休の初日に修理と食糧の搭載作業を行い日曜月曜と航海に出ようかとも考えたが、初日に疲労で動けず断念。そのまま、3連休は家で過ごすことになった。

     航海準備をあたふたと進めてあわただしく出航しても、ろくなことにならないので、これでよかったと思おう。

    船で仕事を片付ける

    9月23日 日曜 晴れ

     この3連休を狙っていたように仕事が入った。どうせやらねばならぬなら、船で仕事をしよう。土曜日のうちに、必要な測定を済ませ、その結果をノートPCに移して船に持ち込んだ。1200、上船。船に乗る前に、まるよし食堂でラーメンを食べる。きょうは麺、スープ、ともに按配がよかった。

     往復4時間も無駄な時間をかけるぐらいなら、機材や環境が整っている家で仕事をすればいいというのは、合理的な考えだが、船に行くと出港せずともストレスが抑えられて、次の日から細かいことに腹を立てることなく暮らすことができる。それにもまして、船という非日常な場所で日常の雑事を片付けるという行為そのものが、もうそれだけで、なにかしら面白いイベントになってしまう。

     過去に何度か巡航中に仕事を持ち込んだことがあった。そうすることで、長期の休みが取れる。土日と休んで月曜に仕事、そして火曜日に有給をとって水曜日の明け方に帰港してそのまま出社すれば、航海に使える日程としては5連休に相当する。これなら東京湾にヨットを係留する「勤め人」でも伊豆諸島を巡航できる。伊豆諸島なら、新島と式根島で来島者が自由にPCを使える場所を用意している。ヨットで旅する面白さは自由人だけのものではない。

     上船して1時間ばかり昼寝をしてしまったりと、それほど熱心に仕事をしたわけではないが、なんとか、一本片付けることができた。いったん仕事に取り掛かると、TVもないしネットもつながらないしと、横道にそれることがなかったので、意外と効率よく仕事が進んだ。

     1700、下船。歩いて20分でバス停に着き、バスが来るまで30分待ち、渋滞の中、30分かかって三崎口に着いた。